(すぎやまじょがくえんだいがく)
愛知県名古屋市千種区星が丘元町17-3
TEL 052-781-1186(代)URL http://www.sugiyama-u.ac.jp
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2002年度の「マンガ文化論」の受講生数が
昨年度と比べると倍以上70名を越える状態
です。これにもちょっとびっくり。「現代風
俗文化論」の方は昨年の100名余から減り
マンガ講座とほぼ同じ状態になりました。
マンガ文化論の学期末レポート課題は、マンガ
原作シナリオを年内に提出していただき、それ
をチェックした後に返却。シナリオを元に8頁
のマンガネームにしたものを新年に提出しても
らいます。作画は不要で、略画でOKです。
『マンガ文化論』講義原案
2001年11月中旬、漫画原作シナリオの試作に挑戦
してもらっています。テーマは書きやすいように「日常」
です。フィクションでもノンフィクションでも自由。
400字原稿用紙約5枚程度にまとめてもらい、一旦
ぼくが読んでチェックを入れ、完成させます。その上で
B5漫画原稿用紙8ページにコマ割りして完成させるので
す。この講座は作画教室ではありませんので、絵を描く必
要はありません。
この勉強は、漫画がどういった工程で制作されるのか、
その原点を体験することで、漫画作品をより深く読み解く
ためのものなのです。そして、物語というものがどんな奇
想天外なものであっても、日常体験から発想されていくと
いう事実を、理屈抜きに理解してもらうことでもあります。
テーマ | その内容 |
(1)「赤本マンガからサブカルチャーへの発展」 | 読み捨てマンガがテキスト化し、おたく文化が誕生するまで。 |
(2)「手塚治虫の革命」 | 『来るべき世界』を読む。重層世界の獲得と表現の多様性。 |
(3)「マンガの記号論」人物篇 | 秋本治:さくらももこらに見るキャラクター表現。 |
(4)「マンガの記号論」背景篇 | 季節・場所・時間・歴史などの記号的表現の実際。 |
(5)「マンガ原画作法」基本テクニック | 製版上・編集上「版下」としての原画。 |
(6)「笑いの構造」 | ギャグ・ナンセンスの発展。 |
(7)「少女マンガの高度化」 | 24年組の登場。男性論理のドラマからの脱却。 |
(8)「マンガ原画作法」キャラクター表現 | 人間や動物の性格を描く。 |
(9)「青春マンガから青年コミックへ」 | ロマンスからリアリテイ追求の過程。 |
(10)「マンガ掌編シナリオ作法」 | 数句の俳句のイメージによるミニドラマ創作。 |
(11)「マンガ編集者の世界」 | 「漫画少年」(加藤謙一・元「少年倶楽部」編集長:「少女クラブ」丸山昭:「少年マガジン」内田勝:「少年ジャンプ」角南攻ら。 |
(12)「マンガの音響世界」 | オノマトペとその絵画的表現。 |
(13)「マンガ原画作法」ペン描き | ペン線の時代的変化。クールとホット。 |
(14)「雑誌「COM」・「ガロ」からコミケットへ」 | 同人誌的、自由表現の追求。 |
(15)「『トーマの心臓』を読む」 | 萩尾望都のもたらしたもの。 |
(16)「レディスコミックの発展と変容」 | 成人女性・主婦向けコミックの役目。 |
(17)「マンガ原画作法」ネーム:コマ割り | コマの記号論。スピーチバルーンの種類。 |
(18)「マンガにおける性表現の歴史」 | タブーに挑戦したマンガ家たち。 |
(19)「『あさきゆめみし』と『源氏』を読む | 新旧読み較べ。時代のテイスト。 |
(20)「マンガ原画作法」効果線の基礎 | スクリーントーン:効果線の記号論。 |
(21)「世界のマンガ状況」 | アメコミ:香港・台湾:ヨーロッパ。 |
(22)「日本SFマンガ史」 | 想像力の到達点。 |
(23)「ひとこまマンガを忘れずに」 | シチュエーションの笑いと風刺。 |
(24)「マンガ原画作法」カラーの基本 | 彩色・印刷技術について。 |
(25)「日本アニメーション概論」A | 初期・戦後・虫プロ創成期。 |
(26)「マンガの時間論」 | 少女マンガの意識の流れ。 |
(27)「ナンセンスの進化論」 | パロディと不条理。 |
(28)「日本アニメーション概論」B | TVアニメの発展。 |
(29)「デジタル・コミックへの志向と現状」 | CGによるマンガ・デジタル・マガジンへの挑戦 |
(30)「マンガの可能性はどこへ向かうか」 | 頂点を極めた雑誌マンガと将来。 |
4時限目は元の教室に戻り「マンガ文化論」です。去年は2年生だけでしたが
今年は3年生も加わり35名ほどになりました。でも40名ほど聴講。
他科生徒が単位は取れずとも、参考聴講のようです。規則的にはまずいのか
も知れませんが、太田先生に事情をお話し、特別にOK。
「赤本マンガからサブカルチャーへ」。自己紹介もあった関係で、概論となりまし
たが、これも手塚作品・白土三平作品の講義のときに補足するつもりです。
4月17日(火)
現代風俗文化論は、<変体少女文字>に続き、喫茶店変遷史です。1500年代
にトルコに登場したコーヒー・ハウスや16〜17世紀のイギリスの喫茶店がどんな
役割を果してきたかに始まり、終戦後のクラシックやジャズ・レコードを聴かせた
喫茶店などについて。これも、次回にずれ込みました。
マンガ文化論は予定通り進行。『来るべき世界』の分析です。
4月24日(火)
現代風俗文化論の喫茶店変遷史は、有名な新宿の風月堂の歴史をたどり、ジャ
ズ喫茶の流行、名曲喫茶などについて触れました。19世紀末、ヨーロッパの都市、
ブタペストには4〜5000軒のコーヒーハウスがあり、そこに作曲家のバルトークや
コダーイ、映画理論家のベラ・バラージュ、哲学者のルカーチ、経済人類学者のポ
ランニーらが盛んに出没した話をはさんで、なぜ知的ユダヤ人たちがコーヒーハウ
スにやって来たのかという事も考えてもらいました。
豊かになった日本人が持ち得たコーヒーハウスが「ノーパン喫茶」だったという事実
も忘られない事です。
マンガ文化論はマンガの記号論の一回目です。
表象研究の中に占めるマンガの記号論は、最近ますます注目されています。次は
四方田犬彦氏のマンガ記号論についても触れます。
5月1日(火)
連休の谷間で、両講義とも欠席者が目立ちました。しかし、休講にしなかったのは
やっと授業に流れが出来て、教室の皆さんとの交流が始まろうとしている時期だっ
たからです。
現代風俗文化論は<広告コピイの歴史>でした。戦前のスモカ歯磨きのコピイから
戦中の軍部による「献納広告」<贅沢は敵だ>などに触れ、三木鶏郎らのコマソン
を経て、TV-CMへと発展していくなかで、文学者たちが果した仕事を話しました。
そして、ライトパブリシティなどの制作プロダクションに集まった人々の残した仕事な
ど、ユニークなコピイの数々。石上三登志のレナウン・イエイエをはじめとする、優れ
たCMについて、などなど。さらに次の時間へ継続します。
マンガ文化論は、歴史に戻り劇画へと発展するなかで、マンガの物語に歴史を初め
て取り入れた白土三平・池田理代子について語りました。
チャンバラ劇にしか過ぎなかった、マンガ時代劇が平田弘史や白土によってリアリティ
を獲得したこと。『リボンの騎士』の童話的・宝塚歌劇的構造を、史劇的なストーリー
で超えていった池田理代子…。
手塚マンガは、トキワ荘グループによっても超克されていきます。
5月8日(火曜)
現代風俗文化論は広告コピイ史の二回目。糸井重里の仕事をたどりながら、コピイ
の様々なタイプや機能について、考察。近年、ベネトンが広告にエイズ患者や死刑
囚までを登場させていることにも注目し、囚人たちのコメントまでが、広告コピイに
なってしまう現実の問題にも触れています。
マンガ文化論は、漫画の記号について。主に人物表現を中心に、その顔・ファッション
・髪型などの記号的表現を探りました。
4月18日(火)早くも2回目の講義です。
名古屋駅を出て、地下鉄東山線に乗るまえに、地下街にある三省堂
書店のマンガ・コーナーをのぞくと、『マンガロン』とタイトルさ
れた本が目に入りました。
著者は鶴岡法斎さん、版元はイースト・プレス(1300円)です。
帯に<早稲田大学『漫画史』教科書ですと、赤文字で書かれています。
そうだ、手塚治虫文化賞のパーティで、唐沢俊一さんから紹介された
鶴岡さんの新刊だ。
早速購入。喫茶店で読み始めました。
OH!痛快な本です。遠慮なくビシバシ斬り込んでくる作品評は、そ
のまま彼の生き方でもあるのです。
1970年代、ぼくは無我夢中でパロディ・マンガを描き、赤塚不二夫の
疾走に必死で併走していましたが
この本のサブタイトルは<70年代生まれの極私的マンガ論集>とあり
ます。若い!
エネルギーをもらいました。
4月25日、3回目講義の終了後、生徒さんから「椙山女学園大学漫画研
究会」の会誌『扉』(21号)を見せてもらいました。B5判178ページ
の作品集で小説も数本掲載されていました。上の写真がそのカバーです。
この他にA判166ページの『DOOR DX』(15号)とコピーを綴じ
た小冊子も拝見。
なかなか活発に活動している様子に驚かされました。
会員の中には、これ以外に同人誌活動をしている人も多いのです。
ぼくの講座でも、短篇作品製作やマンガ原作の執筆をしてもらう予定です。
5月23日の講義で、『源氏物語』をマンガ化した『あさきゆめみし』
(大和和紀・講談社)と、源平をヒントにしてSF、SF的な設定で、現
代の高校生の恋愛感情をユーモラスに描いた『源氏』《高河ゆん)を
とりあげました。
その際、牧美也子版源氏と読み較べたり、谷崎源氏、瀬戸内源氏と読み
比べるのも、文学部生徒は、勉強になるのではという話しにもなりました。
『ジャングル大帝』(手塚治虫)は、雑誌初出・単行本・TVアニメ化の
時の雑誌連載、その単行本などなど、おおくのヴァージョンが存在し、マ
ンガ批評でもテクスト・クリティックが必要とされるケースも多いのです。
この重要性を、早くから指摘されておられたのが、岐阜経済大学の榊原
先生なのです。
そんな授業を思い返しながら、帰途の新幹線で本校の小冊子「風」(8号)
をめくっていましたら、国文学の武山隆昭教授の『私の卒論「住吉物語」』
というエッセイが目にはいりました。
それによれば、先生は名大文学部3年当時、100を越す異本があるという中世
説話『住吉物語』の研究に熱中したとあります。
先生は、教授に紹介状を書いてもらい、写本を所蔵している住吉大社や天理
図書館などへ行き、やはり借りた一眼レフカメラで、重要写本を複写しました。
そして、焼き付け費用を節約するため、フィルムを自作した幻灯機で、壁に映
して読んだのです。
その追求・探求ぶりはまさに「オタク!!」。こうした徹底した探求態度こそ
が、いま欧米で評価の高い「マンガ・アニメの研究とファン行動」なのです。
オタキング・岡田斗司夫氏がオタクは暗いなどといった変な存在ではないと、
自らのオタクぶりを東大生の前で披露しています。
武山先生は昨年の2『住吉物語の基礎的研究』(勉誠社)を上梓されています。
36年間の研究の成果です。
本校の生徒のみなさんの中からも、こうした熱中生が出て欲しいですね。
中間テストはレポート提出です。
萩尾望都の傑作『半神』について出題しました。
秋からは新しい生徒も数人増えます。シナリオの実作を行い絵の描ける人は完
成作品を目指します。絵の苦手な人でも、ネーム割りまでは出来ます。エッセ
イを書くつもりでそれを画面割りに組み立ててみればよいのです。この体験が、
文章力をさらに鍛えてくれる筈です。
8月に入り、レポートを読み出しました。
「自分がユージーの立場だったらどう考えるか?」という問いに対しての
答えが皆あまりにも現実的すぎるような感じを受けています。
ユーシーの「無垢」という事に、考えを巡らせてほしかった。
『半神』としたのは、「無垢なもの」と「神」の関係を見詰めたかった
からではないでしょうか。
大垣女子短期大学では「トーマの自己犠牲」について問いましたが、
これもやはり現実的な答えが95%。トーマとは実はキリスト
なのではないか?と書い生徒は1、2名でした。
勿論、現実的な思考も大切ですが「作者の思考・イメージ構築」
を自分 がどう捉えるか。読書感想文を超えようという意気込みを
読みたいと思ったのです。
9月からの課題は−−。
10月末までの宿題として<日常>をテーマに、漫画原作を書きます。400
字5枚程度のプロットをまず書き、その後でネームに仕立てる予定で
す。文学部ですので、絵を描かない人の方が多いが、描ける人は絵まで
描いてみようと 提案しています。
<日常>テーマは、既に日本工学院の生徒が、百人百様の設定で書い
ています。魔導師の一日もあれば、ドキュメント風もありました。
椙山でも同じテーマに挑戦してもらいます。
文章をネーム化する体験を通して、文字と絵の機能を体験することも、
この宿題の目的のひとつです。
その後−−。
毎日映画コンクール・アニメ部門の選定会のため--。
12月の第一週は休講で。二週目はSF漫画史をやる積も
りでしたが『攻殻機動隊』と『新世紀エヴァンゲリオン』(庵 野秀明・監督)の2作を集中して取上げました。
攻殻は押井守監督がアニメ化し、毎日コンクールでも賞を
取り、アメリカのビデオの人気(ビルボード誌)で1位に輝い たものです。
ネット犯罪を追う公安警察の女性少佐・素子が、ネットの 海で誕生した<生命体>人形使いと、意識を融合させてし まうという、かなりマニアックなSFですが、デジタル記号が どこまで進化出来るのかという、新しい問題を提起してい るのです。
まず女性読者が殆ど居ないことをみこして、敢えて取上げ てみました。
エヴァも案外観ている生徒が少ないのです。14歳の少年 の成長物語が、全て否定されてしまうところに、リアルさが
ある、こ れも難解・失敗作といった事が、逆に話題となっ
てヒットした問題作でした。
貞本義行の雑誌連載単行本で、明快な部分を読み、言
葉のみで作品内部でも解決出来なかった事にも言及して
います。
2001年1月には、昨年宿題に出した創作漫画原作をもとに
した「ネーム・コマ割り」作品を提出してもらっています。
今まで絵を描いたことのない人も、略画で対応してもらい
ました。「漫画家がこんなタイヘンな作業をしているなん
て!」と、文字原稿とは違った作品制作には苦心した人も
いたようです。
作品を描いたことですし授業ではシラバスに予定していな
かった著作権についての初歩的知識を取上げました。
最近、ネットの拡大と共に誰でもが著作権との関係が深く
なっています。財産権の一つであるこの法律が今後どのよ
うに改正されていくか、注目したい。そんなことも含めて、最
近のトラブルや裁判の話題にも触れています。
文学部日本語文学科・松田良一教授の著作を戴きました。
昨年11月に東京書籍から刊行されたものです。かつて山田
詠美マンガ家だったことは知られていますが、これほどその時代を細かく検証した、
本はありません。
吉本ばななとの作品比較も、具体的で面白いです。ファンの方は必読!
松田教授は永井荷風の研究で知られた先生ですが、マンガに対する柔軟な思考をお
持ちです。
ぼくが、本校に講座を持つことになったのも、松田教授の提案があって実現したと
のこと。先生の期待を裏切らぬような充実した講義を続けていきたいとおもいます。