ポエトリイ・コミック
            
                                         
 
         「詩の雑誌midnight press」に連載の2ページ短編です。
            

            
           発行所は
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                ミッドナイトプレス
           



      連載5年間、20回目(2004年春の号)で最終回
      です。ご愛読ありがとう御座いました。

poetry-comic.htm 


  掲示板へ書きこまれました桜さんのリクエストにおこたえして、ぼくの第一詩集
 『叫びのかたち』より、作品を掲載致しました。
 この本は、ぼくに詩を書かせた山藤亮が昭和40年10月にイザヤ書房という社 名で、発行した事実上私家版詩集です。「現代詩手帳」に投稿し入選した最も 初期の作品や、詩になっていない習作が収録されています。
 井上陽水のLP「氷の世界」収録曲『桜三月散歩道』は、この習作をもとにアレ ンジ作詞したものです。今回はそれとは別の作品を本からコピーしてみまし  た。
             

 
 
 
 

  試合

向かいあった二人はお互いの瞳のふちにあふれてきている夜の景色をみつけると、ふと抜刀する事をためらい、一層近く寄ってみた。
傷ついた遠目鏡の向こうに横たわった戦場のようにその乾きかけた地面からは静脈が怒りを含んで盛り上がり、草は寒い夜明け方の僕らの皮膚の如く
ひりひりと音を立てている。
b全て破られた花びらは空からしたたる灰色の血を繰り返し浴びて茎にまでその色をにじませ、葉の揺れる間からは幾本かの刀が光った腹をみせてそり返った。

こうも近くに寄ってしまうと更に刀は抜き難い。
二人がもう一歩ずつ近ずくと景色の中の夜空では星座がみにくい型に置き換えられているのがみえた。
低空をうなって幾羽もの巨きな鳥が飛び、それをぬって電波を発しながらコウモリが狂う。
銀河は消えかかり、夜は確かにその高度を下げつつあった。
地平の森はうなじをゆっくりと下げて、旗は色あせた白い肌を風にこすられて痛そうに地をはっていく。

  いつも芽を吹き出している地面。
  軽く腕を組み合っている森や林。
  つぼみの中に明かりを灯している 花。
  旗がよじれない風。
きみの素足が走っていく草原。
がある景色を瞳の奥に探してみた二人。
だがその視線はちぎられた山彦のように 二人の間の谷間へずり落ちていく。

二人の眼は何かを叫びそうになりながら、きみと僕の眼のように近ずいていった。
共に剣を抜くのは今だと思ったが、重ねられるネガのように二人のからだはそのまま互いのからだの中に入っていってしまった。しかし夜の景色は重なろうとしない。
二人は初めて互いの内側で抜刀し、ずれた部分をそぐように切り落とし、夜の裏側へと、その切っ先を向けた。
 
 

「試合」は「現代詩手帳」に投稿した作品です。

第一席に入選しました。選者は長谷川龍生先生でした.

<タッチだけの作品だが、柴田錬三郎の小説みたいで

面白い>という感想でした。時代劇のように現代詩を

書くなんて、そんなヘンな奴がおかしいということだと

思いました。まことにその通りなので、納得した記憶が

あります。

 

 
 

      

 
 

  
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